ミヤマクワガタの不思議
(その4)
大顎先端部異形個体 (左:基本型、右:フジ型)


ミヤマクワガタの不思議「フジ型の顎を持つエゾ型個体」以来、十数年ぶりに採集できた個体です。

北海道南部産のミヤマクワガタは3型(エゾ型、基本型、フジ型)が存在しますが、本個体の大顎先端部は左が基本型、右がフジ型の非常に稀な個体となります。

また、大顎の湾曲が右と左で違うのも特異的で、この様な個体を採集すると幼虫時の温度帯とは別に遺伝的要素があるのではないかと思わざるを得ません。

何十年とミヤマクワガタを観察・採集していますが、稀に採集できるこの様な個体を見ると、大雑把に生態は把握出来てもミヤマクワガタの不思議はまだまだ有ると改めて気づかされます。

本個体の様な大顎を見ると、その種が持つ根源的な部分に何らかの要因が隠されている様にも感じられます。

2018年8月

当り年とハズレ年について考える

同じフィールドに長年に渡り通い続けていると、その年により大型個体の発生数に変化があることが判ってきます。

蝦夷ミヤマに関しては75mmの個体を一つの指標とすると、過去にはまったく採集できない年もありました。(今現在とは違い各林道が閉鎖される前の話です) 

その年は74.5mmが最大個体となりましたが、この年は全道的にみても異例の年であった様に感じています。

また、大型個体の発生に関しては地域性も有る様に感じます。北海道南部で言えば、渡島・檜山と後志・胆振・日高でその年により違いますし、もっと言えば同じ渡島地域でも100km離れると山自体の様相が変わって来るようにも感じられます。

大型個体に関しては毎年平均して発生しているものでは無く、何らかの理由によりその年により発生数が違って来ているようです。また発生数に関してはノコギリクワガタや他のクワガタにも言えることであると思います。

この発生数に関してはクワガタに限ったことではなく、他の様々な種類の昆虫にも言えることです。北海道では雪虫(アブラムシの仲間)や蟻(羽蟻)、カゲロウの仲間が大発生する年があります。

蝉にもこれはあり、ある種類だけが極端に少ない年があります。蝉に関しては周期性を持つ種類が外国には生息していますので、少なからず可能性はある様にも感じられます。

基本的に昆虫全般に関してはその生態が解明されていない種類も多く、不思議な点はまだまだ無数に存在していると思います。これはミヤマクワガタも例外ではありません。


余談、蝦夷ミヤマの生息個体数に関すること

北海道南部の今現在(2020年)の状況を簡単に記します。

各林道の保全によるゲート封鎖により、十数年前とは比較にならないほど人が山奥にまで入れない状態となっています。

また封鎖されたゲートより先の採集地は徒歩で数時間ほど掛かる場所も多く、そのほとんどがヒグマの生息域の真っただ中にあります。もう少し若ければそこへ行く気力も沸くのですが体力・気力ともに今はもうありません。

毎年ヒグマには何らかの形で遭遇します。漫画ゴールデンカムイにも登場する日本に生息する最強の獣ですから、格闘し勝てる相手では当然なく、運が悪いと命を落とし彼らに喰われるだけです。そんな相手ですから、徒歩での遭遇は極力避けていますし避ける努力もしています。

蝦夷ミヤマは毎年数多くの個体が採集され販売もされていますが、それでも全体の個体数からすると微々たるものだと感じます。離島の様な隔離された環境ではない北海道ですから、一度こちらに来て採集されるとそのことがよく判ると思います。

実際のところ、ゲートより先の採集地では個体数は昔のまま、あるいは増加している様に感じられます。キムンカムイ(ヒグマ)が人の侵入を阻み、そこは蝦夷ミヤマの楽園と化していて、現状が維持されるのであれば楽園は長く保全されるものと考えています。

筆者が知る限りでは北海道で採集された最大個体の標本は78mm台ですが、その個体を超える79mm台、あるいは幻の80mm台が楽園と化した領域に人知れず生息しているのかも知れません。そう考えると浪漫が膨らみます。

2020年8月